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「スタッドレス履いてないけど大丈夫かな?」…“積雪パニック”に揺れる首都圏ドライバーの“恐るべき実情”

2024/02/05

genre : ライフ, 社会

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危険を感じた瞬間にはもう「手遅れ」に

 おそらくこうした判断の甘さは、雪道や凍結路の危険性について現実に体感していないことに由来している面も大きいだろう。ノーマルタイヤのままではどれだけコントロールがきかないか、制御を失った車がどれだけ危険かという感覚は、身をもって経験しなければ実感しにくいところがある。

 実際のところ、平坦な道であれば、ノーマルタイヤのままでも雪のなか発進できてしまうケースはあるだろう。そうして、「意外と進めるじゃん」と車を発進させたあと、交差点にさしかかり、ブレーキもハンドルもまったく言うことを聞かないことに気づく……雪道の恐ろしさを実感したときにはもう、手遅れになっているわけである。

 JAFが圧雪路の制動距離をタイヤ種別ごとに比較した調査では、時速40kmからのブレーキングにおいて、スタッドレスタイヤの制動距離が「17.3m」だったのに対し、ノーマルタイヤは停止まで「29.9m」を要している。その差12.6mは、コンパクトカーが3台連なった長さに相当する。

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 一般に、信号待ちにおける標準的な車間距離は乗用車1台分とされているが、雪道でこれを目安にブレーキングをしようものなら、そのまま前走車に突っ込んでしまうことになる。

 さらに、圧雪路で半径20mの旋回コースをパイロンに沿って走るJAFの実験においても、スタッドレスタイヤ装着の有無によって顕著な違いが見られた。スタッドレスタイヤ装着車両が時速40kmでも安定したラインを描いたのに対して、ノーマルタイヤ装着車両の走行ラインは時速30kmで大きく外側に膨らんでしまった。

 その逸れ幅は優に1台分の車幅を超えており、仮にこれが片側1車線の山道であれば、対向車線にはみ出すどころか、そのまま反対側のガードレールに衝突しかねないレベルである。

 ノーマルタイヤの車は雪道で止まれないし、曲がれない。言葉のうえでは特段恐ろしさを感じないが、実際に運転席に座った状態で、ブレーキを踏んでいるのに車があらぬ方向へとすっ飛んでいく絶望と恐怖は、想像をはるかに超えるものだろう。