生涯をかけて誇りに思える「幸せな寄付」の実践法
自分が死んだ後に、遺言などに基づいて行う「遺贈寄付」。近年、人生最後の社会貢献として注目されている。遺贈寄付を実践する方法や情報収集のコツについて、専門家に聞いた。
病床に伏してから準備するのは難しい
近年、死後に遺産を寄付する「遺贈寄付」をしようと、NPOなどへの問い合わせが増えている。
遺贈寄附推進機構の齋藤弘道さんは「コロナ禍などを経て、“死”を意識する機会が増えてきたことが一因にあると感じます。これまで『終活は自分にはまだ早い』と考えていた方たちが動き出したことで、遺贈寄付への関心もおのずと高まっているのではないでしょうか」と話す。
多くの人は「まだ元気だから」と終活や遺言作成を先延ばしにしがちだ。これまで数多くの遺言作成を支援してきた齋藤さんは「病床に伏してから遺言を用意するのは想像以上に困難です。薬の影響で判断能力が衰えたり、遺言作成中に容体が急変し亡くなった人もいます。体は元気でも、歳を取れば認知症を発症する可能性は高まります。遺言をはじめとした終活は、元気だからと先延ばしにするのではなく、元気なうちにこそ始めてほしいですね」と訴える。
遺言や信託で広がる寄付の選択肢
遺贈寄付を実現するためには、遺言などで意思を示す方法が一般的だ。現在広く使われているのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類。齋藤さんは「それぞれにメリット、デメリットがあります」と説明する。
公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思を聞き取ったうえで遺言書を作成する形式だ。プロが関わるため形式不備や偽造のリスクが低く、また公証人が遺言書を作成するため、病気などで文字が書けない状態でも遺言を残すことができる。
対して自筆証書遺言はその名のとおり、遺言する本人が自筆・押印して作成する。手軽に作成できるのが最大のメリットだが、形式不備があると遺言が無効になるおそれもある。また自宅保管は紛失や偽造のリスクがあるため、「法務局の自筆証書遺言保管制度を利用すると安心です」と齋藤さん。
このほか信託を活用して遺贈寄付をする方法もある。遺贈寄付に使える信託には、遺言代用信託や生命保険信託などがある。
「信託は財産が受託者(信託銀行など)に移転して管理されるため、遺言のように形式不備や遺贈の放棄などで財産が引き渡されないことがなく、確実に寄付が実行できます。例えば遺言代用信託は名前のとおり遺言の代わりとして利用できるものですが、申込書や契約書に記入するだけで簡単に手続きできるうえ、遺言のように遺言執行者を別に決めたり、保管場所を用意する必要はありません。遺贈寄付を考えている方にとっては非常に使いやすい仕組みになっていると思います。最近は遺贈寄付特約が付いた商品が登場するなど、ラインナップが広がっています」
自宅や全財産の遺贈は事前に相手に相談を
遺贈寄付先はさまざまだが、いざ「自分が寄付したい団体」を探そうと思うと調べるのは大変だ。また自分が寄付したい財産を、寄付先が必要としているかも重要な観点だという。
「『全財産を○○へ遺贈する』という包括遺贈を希望する方が多いのですが、団体によっては受け入れが難しいケースがあります。相続が始まってから遺贈を放棄されたら、遺言者はすでに死亡しているため取り返しがつきません。包括遺贈や不動産の遺贈寄付を考えている場合は、事前に受け入れ団体に相談をしておくとスムーズです」と齋藤さん。
遺贈寄付は相続や資産管理などとも密接に関わるため、寄付先選びに悩んだ際は専門家のサポートがあると心強い。齋藤さんの所属する全国レガシーギフト協会では無料の相談先をWEBサイトで紹介している。また日本承継寄付協会でも専門家の紹介や相談に応じている。
よく知らない団体にお金を託していいか不安に感じる人もいるだろう。まずは少額で寄付をしてみることがおすすめだ。多くの団体では寄付者に対して活動状況を報告するため、お金の使い道をしっかりと知ることもできる。また生前に寄付をしている姿勢を家族に見せておくと、遺贈寄付に関しても遺族の納得感が得られやすい。
未来のための寄付で社会に足跡を残す
遺贈寄付は人生最後の社会貢献と言われるが、齋藤さんは「遺贈寄付は社会のためだけでなく、寄付した本人も幸せにしてくれる行為です」と語る。
「遺言や信託で寄付の準備をしても、生きている間に自分に利益がもたらされることはありません。しかし遠い未来に、自分の寄付が、思い描いた社会をつくる確かな一歩となる。そう信じられることは、自分自身に誇りと幸福感をもたらしてくれます。遺贈寄付とは、自分の意思で、まだ見えない未来を自ら選び取っていくことなのです」
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